おおすみ型輸送艦はあつみ型輸送艦の後継の輸送艦で、同型艦は3隻建造され、すべて護衛艦隊直属の第1輸送隊に配備されている。
おおすみ型はあつみ型輸送艦の退役に伴う代替として計画されたが、輸送を行う陸自部隊の装備の大型化、PKOや災害派遣などの際に海上基地としても使用ができるようにあつみ型よりも基準排水量が7,000t以上増加した8,900tとなっている。
これまでの輸送艦は艦首に観音開きの扉があり、艦が直接浜辺にビーチング(乗り上げ)し、扉を開いて車両や物資、人員の揚陸を行うバウ観音開き式と呼ばれる方法だったが、おおすみ型の船型はこれとは大きく異なり、艦首に扉が無く、通常の艦首の形状をしている。
これは、バウ観音開き式の船型では喫水を深くできずに搭載量に限界があるほか、艦が直接ビーチングする方式式ではビーチングする地点の地形に制限があるため、船体の大型化や効率化などによって通常の船型となった。また、速度もバウ観音開き式の船型では速度を出すと扉から浸水する恐れがあったが、通常の艦首の形状となったことで速力もあつみ型の13ノットから22ノットに増速されており、機動性や即応性などは大幅に向上された。
物資の積み込みは両舷にあるサイドランプ(戦車も自走して入ることができる)から車両や物資などを搭載し、車両は艦内のターンテーブルで向きを変えて艦内の格納庫に格納され、一部は上甲板まで専用の大型エレベーターで上げられてそこで係留される。このため、係留の効率化などのために艦橋部分が右舷側によっており、艦首から艦尾まで(ただし、艦首部分は錨甲板)が平らな平甲板となっている。
搭載量は重量が約50tある90式戦車10両(単純計算で計500t)と完全武装の陸自隊員330名(3個中隊規模)の輸送が可能であり、乗員以外(=輸送する陸自隊員、災害時は被災民等)の宿泊設備も備えている。また、災害時などには必要とあらば上部甲板などに1,000名程度の人員を搭載可能となっている。
物資などの揚陸方法は通常の船型となったことでこれまでの輸送艦と異なり、輸送艦は沖合に停泊し、2艇搭載しているホバークラフト型のエアクッション艇(LCAC)に艦内で車両や人員、物資などを搭載して艦尾にある扉を開けてそこから発進し、エアクッション艇が揚陸地点にビーチングすると言う方式をとっている。このエアクッション艇は、ほぼすべての地点にビーチングすることができるなどの利点があるほか、速力が40ノットと高速なため、陸上からの攻撃にあいにくいという利点もある。また、艦尾にある飛行甲板には大型輸送ヘリコプターCH−47などが着艦することができ、ヘリを使った輸送も可能である。
エアクッション艇(LCAC)を格納するスペースには運用の必要上から若干の海水が注入できるようになっており、小型艇なら直接格納スペースに入ることができるため災害派遣の際には小型艇を直接エアクッション艇の格納スペースに入れることにより効率的に被災民などの輸送ができる。
船体やマストは直線的なデザインで、傾斜がかけられており、ステルス性が考慮された設計となっている。マストは、これまでのパイプを組み合わせた形状のものではなく、
あたご型護衛艦が装備しているような直線的なマストを採用している。これにより、レーダー反射面積が少なくなり、ステルス性が向上している。海上自衛隊でこのステルスマストを護衛艦が採用するのはあたご型以降になってからである。本来なら戦闘艦艇である護衛艦が真っ先に採用してもよいはずだが、このステルスマストではパイプ型マストに比べて重量が増加してしまうためなかなか採用には至らなかったのである。
このように、ステルス性考慮など、これまでの輸送艦とは大きく異なる。そして、輸送艦としてはじめて
高性能20mm機関砲(CIWS)を装備しており、これによって手動式の機関砲を装備していたこれまでの輸送艦よりも近距離での自衛能力は大幅に向上している。
おおすみ型についてはその形状から空母と勘違いされやすいが、実際は空母で無いのは明らかだ。おおすみ型の後部甲板には大型の輸送ヘリコプターCH−47も着艦できる大きなヘリ甲板があるが、できるのは発着艦だけで、ヘリ格納庫がなくヘリを整備するスペースがないため長期間ヘリを“運用”できない。さらに、航空機用の貯蔵燃料も少ないなど、ヘリのみを運用する航空母艦(いわゆるヘリ空母)とはとてもいえない。米海兵隊で運用している垂直離発着機のAV−8B(ハリアー)やその後継となるF−35B(開発中)の運用についても甲板の耐熱などさらに問題は多い。
航空機の運用能力が無いという実例をあげてみると、2004年に発生したスマトラ島沖地震の際に国際緊急援助隊としておおすみ型の『くにさき』などがスマトラ島沖に派遣され、海上基地として使用されたが、搭載していた陸自ヘリのUH−60JAやCH−47の整備に関してはUH−60JAはともに派遣された護衛艦『くらま』(UH−60JAと同系列のヘリを運用している)で整備を行えたが、CH−47は点検のみで整備ができずに大きな問題があった。
さらに、空母のような形状をしているためか、意図的かは知らないが、おおすみ型を「強襲揚陸艦」だとする人がいる。(一部の)書籍やウェブページなどには「おおすみ型は強襲揚陸艦だが、政治的な理由で輸送艦となっている。などと書いてあるが、まず、おおすみ型は“強襲”揚陸艦ではない。
強襲揚陸艦とは上陸する部隊に火力支援(対地攻撃など)ができる能力を持っている艦だが、おおすみ型には上陸を行う(陸自)部隊を支援できる武装は無い。おおすみ型の艦橋部分の前後には高性能20mm機関砲(CIWS)が装備されているが、これは対空防衛がメインで、対地攻撃には使用ができず、射程が短いために対空支援をするには陸に接近しなければならず、陸からの攻撃を受けやすくなる。その他に12.7mm重機関銃や小銃などを数挺搭載しているがこれは射程や威力などから至近距離の自衛用である。航空機からの対地・対空支援については前の項目で航空機の運用能力が無いという点で否定できる。
つまり、おおすみ型は海外で言うドック型揚陸艦といった所だろう。
最初に述べたとおり、おおすみ型は災害時に海上基地としても使用ができるように設計されており、手術室などの医療設備も備えている。
実際に、2004年12月26日に発生したインドネシアのスマトラ島沖地震の際(派遣自体は翌年の1月になってから)には沖合に停泊した「くにさき」を海上基地として使用し、そこからエアクッション艇(LCAC)による揚陸、ヘリを使った空輸で被災地に救援物資などの輸送を行った。
また、2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震では災害派遣された「くにさき」は19日、新潟県柏崎市沖からエアクッション艇(LCAC)によって食料や救援物資などをを積んだ陸自の車両を輸送した。(入港して陸揚げしなかったのは支援物資を輸送してきた他の船によって港が混んでいたため。)翌日には新潟県刈谷崎港に入港して物資の陸揚げを行ったほか、断水などによって入浴できなかった被災者に対し艦内に19個あるシャワーブースを開放した。
スマトラ沖の派遣と中越沖地震の派遣で両方とも、「くにさき」が使用されているのは偶然(だと思う)。
前述したスマトラ島沖への派遣を踏まえて平成18年度予算ではこのおおすみ型を改修する予算が付いており、建造当初から艦の横揺れを防止してヘリの発着艦が容易に行うことのできるフィンスタビライザー(横揺れ防止装置)を装備していなかった「おおすみ」にはこのフィンスタビライザーを装備させることが決まっている。また、陸自の野外手術システムへの艦内からの電源供給のための改修や監視カメラによる監視能力向上、ヘリ用燃料の貯蔵能力向上、舷梯(上船や下船などに使うはしご。タラップ。)の自動化改修などが順次行われる。
ちなみに「おおすみ」と「しもきた」の艦名が使われるのは海上自衛隊としては2度目で、初代は海上自衛隊創設当初に米軍から貸与された「おおすみ型」の「おおすみ」(旧、「ダッゲット・カウンティ」)と「しもきた」(旧、「ヒルズデール・カウンティ」)である。
主要目 |
型名 |
おおすみ |
船種 |
輸送艦 |
基準排水量 |
約8,900t |
長さ |
178m |
幅 |
25.8m |
深さ |
17m |
喫水 |
6m |
速力 |
22ノット |
乗員 |
約135人 |
主要兵装 |
高性能20mm機関砲×2
|
同型艦及び年表 |
番号 |
名前 |
計画年度 |
起工 |
進水 |
就役 |
退役 |
4001 |
おおすみ |
1993年度 |
1995年12月6日 |
1996年11月18日 |
1998年3月11日 |
(就役中) |
4002 |
しもきた |
1998年度 |
1999年11月30日 |
2000年11月29日 |
2002年3月12日 |
(就役中) |
4003 |
くにさき |
1999年度 |
2000年9月7日 |
2001年12月13日 |
2003年2月26日 |
(就役中) |