『はやぶさ型ミサイル艇』は高速力を誇る局地防衛用の最新ミサイル艇である。はやぶさ型は6隻建造され、3隻で1個ミサイル艇隊を編成していたが、1号型の1号と2号が2008年6月6日で退役したことにより、変則的な編成となっている。1号型の3号の退役も間近なため近いうちに2隻で1個ミサイル艇隊を編成するとみられる。
概要
海上自衛隊では魚雷艇に代わるものとして以前にミサイル艇『1号型』を建造したが、イタリアの哨戒艇をモデルにしたこの艇は船体が小さく、航続性能、運動性能など、日本周辺での運用は大きな影響があることが判明し、さらに、地対艦ミサイルや空対艦ミサイルなどとの費用対効果の問題もあり、当初は18隻建造し、舞鶴や佐世保、大湊に6隻ずつ配備する予定であったが、結局3隻の建造で終わった。このため、1号型よりも能力を大幅に向上させ、大型になったはやぶさ型が建造されることになった。
武装
1号型では遠隔操作型の20mm機関砲を船首に装備していたが、はやぶさ型では
76mm速射砲を装備している。この76mm速射砲は、従来の護衛艦に搭載されている丸いドーム型のものではなく直線的なデザインでステルス性を高めたシールド形状のものとなっている。20mm機関砲ではなく76mm速射砲を装備したことによって射程や打撃力などが大幅に向上されている。
ミサイル艇の命ともいえる対艦ミサイルは1号型と同様に国産の
90式対艦誘導弾を搭載している。発射機は、1号型のように前方に向かってV字型に開いた配置ではなく、2本ずつ互い違いに配置されている。この対艦ミサイルは、ミサイル艇が捉えた目標だけでなく、味方の護衛艦やP−3Cなどからのデータリンクによっても射撃が可能となっている。
さらに、はやぶさ型には12.7mm重機関銃が搭載されている。これは、工作船などに対する警告射撃や至近距離での攻撃を考慮してのことであり、護衛艦などにも搭載されているものと同様である。
12.7mm重機関銃は通常、艇内に保管されており、使用時に架台にセットして射撃を行う。架台は護衛艦などに取り付けられているものと同様のもので、艦橋後方の左右に1基ずつ取り付けられている。この重機関銃は遠隔操作による射撃ではなく人が直接照準・射撃を行うもので、このため射手を守るため右の写真のように防弾盾が取り付けられている。なお、この重機関銃は艇固有の装備ではなく、搭載品の扱いである。
船体
はやぶさ型の船体はステルス性を念入りに考慮した形状となっており、マストは通常のパイプを組み合わせたようなものではなく、直線的で角ばったマストとなっている。また、上部構造物なども直線的なデザインとなっており、レーダー反射面積を抑えるよう設計されている。
機関(エンジン)は石川島播磨がライセンス生産を行ったLM500-G07型ガスタービンを3基搭載している。このLM500型ガスタービンは1号型と同系列のであるが、はやぶさ型のものは1基あたりの出力が400馬力向上し、1,400馬力となった改良型になっている。
推進方法は従来の艦艇のようなスクリューを使ったのものではなく、ウォータージェットポンプと呼ばれるもので推進を行う。このウォータージェットポンプは、水を取り入れ、その水を高速でウォータージェットノズル(左の写真)から噴射することによって推進する方式(水上バイクと同じ原理)で、はやぶさ型はこのウォータージェットポンプを3機搭載している。
そして、操舵方法も船底から垂直に出ている方向舵の向きを変えて針路変更を行うのではなく、ウォータージェットノズル自体の向きを変えて針路変更を行う方式となっており、直接推進装置の向きを変えるため小回りが利くようになっており、強力なエンジンとウォータージェットポンプによって速力44ノット(時速約80km)の高速で航行することができ、なおかつ小回りも利くようになっている。
艦橋と煙突の間には全長約6.3m、速力約20ノットで定員10名の複合型作業艇を搭載している。この複合型作業艇は、救難や人員輸送などの各種作業だけでなく、不審船などに対する臨検などにも使用ができる。使用する際は、クレーンによってつりさげて海面までおろして使用する。
なお、この複合型作業艇は1号型には搭載されていない。
はやぶさ型は、1号型と同様にチャフロケットランチャーを装備しているが、1号型は艦橋前方に装備していたのに対してはやぶさ型では艦橋後方左右に6連装発射機を1基ずつ装備している。
このチャフロケットランチャーは、対艦ミサイル防御用で、レーダー照射を受けると自動でチャフロケットが発射され、アルミ皮膜されたプラスチックを内蔵したカートリッジが空中で炸裂し、チャフ雲をつくり、このチャフ雲がレーダーを乱反射し、対艦ミサイルなどの誘導装置やレーダーを欺瞞し、ミサイルを回避するものである。
電子機器等
はやぶさ型の装備している主要な電子機器等を紹介します。
●マストの最上部に取り付けられている(赤色で表示した)ものは電波探知装置(NOLR−9B)。
●マストの中部に取り付けられている(オレンジ色で表示した)装置は対水上レーダ(OPS−18−3)。
●艦橋上部右側(写真でいう左側)に取り付けられた(黄色で表示した)装置は航海用レーダ(OPS−20)。
●艦橋上部の後部中央にある(緑色で表示した)装置は射撃指揮装置(FCS−2−31)。
●艦橋上部中央部分にある(黒色で表示した)装置は赤外線暗視装置(OAX−2)。
●マスト後方の左右に1基ずつある(青色で表示した)装置は衛星通信装置(写真の左下のもの)
その他
はやぶさ型は平成11年度予算で2隻の建造が決まったが、同年3月に北朝鮮の不審船事件(能登半島沖不審船事件)が発生し、工作船にも対応ができるように船体などの設計が大幅に変更されることになった。当初はウォータージェットポンプを2基搭載し、速力40ノットを予定していたが、より高速を出すため3基に増やし、船体設計も変更され、速力が44ノットに引き上げられることになった。
はやぶさ型は、敵の上陸用舟艇などに対する攻撃という局地防衛任務だけでなく、武装工作船にも対処ができるようになっているが、工作船に対処できる適当な武装がないように思う。
工作船は漁船などに偽装しているが、漁船サイズの船に対しては、対艦ミサイルや速射砲では威力が大きすぎ、重機関銃では威力が小さすぎるように思う。
また、重機関銃も手動照準・操作であり、高速走行時や海面が大きく揺れている際には正確に射撃をするのはかなり難しいのではないかと思う。海保の巡視船などが装備している遠隔操作型の20mm機関砲があればちょうどよいのではないかと思ってしまう。
しかし、スペースがないことや予算的な関係(対工作船対処については海保の能力が向上しており、海自が対工作船をさほど重視しなくてもよくなってきている)などもあって装備される可能性は非常に少ないとおもう。
主要目 |
型名 |
はやぶさ |
船種 |
ミサイル艇 |
記号 |
PG |
基準排水量 |
200t |
長さ |
50m |
幅 |
8.4m |
深さ |
4.2m |
喫水 |
1.7m |
速力 |
44ノット |
乗員 |
21人 |
主要兵装 |
76mm速射砲
90式対艦誘導弾 |
同型艦及び年表 |
番号 |
名前 |
計画年度 |
起工 |
進水 |
就役 |
退役 |
824 |
はやぶさ |
平成11年度 |
平成12年11月9日 |
平成13年6月13日 |
平成14年3月25日 |
(就役中) |
825 |
わかたか |
平成11年度 |
平成12年11月9日 |
平成13年9月13日 |
平成14年3月25日 |
(就役中) |
826 |
おおたか |
平成12年度 |
平成13年10月2日 |
平成14年5月13日 |
平成15年3月24日 |
(就役中) |
827 |
くまたか |
平成12年度 |
平成13年10月2日 |
平成14年8月2日 |
平成15年3月24日 |
(就役中) |
828 |
うみたか |
平成13年度 |
平成14年10月4日 |
平成15年5月21日 |
平成16年3月24日 |
(就役中) |
829 |
しらたか |
平成13年度 |
平成14年10月4日 |
平成15年8月8日 |
平成16年3月24日 |
(就役中) |