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90式戦車

90式戦車

               




 90式戦車(きゅうまるしきせんしゃ)は、74式戦車の後継として国産開発された第3世代の戦車である。愛称は「キューマル」。


開発経緯

90式戦車が登場してもいまだ現役の74式戦車。  90式戦車は74式戦車の開発が終了した直後の1970年代の中ごろから基本コンセプトが練られ、大まかな形が整えられ、『TK−X』と呼称された。しかし、この段階では具体的な組み立てなどが行われたわけではなく、あくまでの紙上のものであった。

 1977(昭和52)年になり、車体や砲塔などの部分試作が行われ、これによって様々な検討がなされた。その結果を受けて1980(昭和55)年に全体試作の使用が決められ、後に2両の1次試作車が作られた。

 そして、1986(昭和61)年から2次試作車を製作し、1987(昭和62)年9月に2両を受領し、技術研究本部の各研究所で技術試験を続け、1両がマスコミに公開された。マスコミに公開された2次試作車は発煙弾発射機が3連装で74式戦車のそれと同じような形状をしているなど、量産型とは細部が異なる。マスコミに公開された時期などからこの『TK−X』は『88式戦車』もしくは『89式戦車』になると大方予想されていた。

 しかし、試験はその後も続けられ、1989(平成1)年1月に別の2次試作車を受領し、北部・東部・西部の各方面隊の管内で実用試験が行われた。

 そして、12月15日に次期主力戦車として採用が決定し、翌年の1990(平成2)年8月6日に『90式戦車』として制式化された。



車体

 90式戦車は車体前部左側に操縦手席、右側に弾薬庫、車体中央が戦闘室で、砲塔左側に砲手、右側に車長席があり、後部はエンジンルームとなっている。

 操縦手席の上部にあるハッチは3つのペリスコープ(潜望鏡)がつけられており、中央(前方)のペリスコープにはワイパーが取り付けられている。また、ペリスコープには夜間操縦用の暗視装置を装備することも出来る。

 車長席には車長用のキューポラがあり、これは3倍と10倍の切り替え式倍率機能を持つパノラマ式の照準機がついており、車体が大きく揺れても目標を安定した状態でとらえることが出来る。砲手用の照準機は砲塔上面左側にあり、この照準機は赤外線センサーとYAGレーザー(イットリウム、アルミニウム、ガーネットを使用したレーザー)を使うレーザー測距装置(レーザー・レンジファインダー)で構成されている。

 そして、砲手用と車長用の照準機との間にはオーバーライド機能というものがあり、これは砲手が目標をとらえていても、車長が必要と判断した場合には車長用の照準機でとらえた別の目標に主砲の照準を向けることが出来る。

 また、90式戦車は砲塔後部に自動装填装置を搭載しており、これは74式戦車のように砲弾の装填などを行う装填手がいらず、初弾発射から4秒で次弾発射ができ、自動装填装置には17発の装填できる。この自動装填装置は装填手がいらず、人員削減につながる一方、一時的に故障した場合でもその間、主砲の発射が行えなくなる可能性があり、この自動装填装置を搭載している戦車は少ない。
しかし、90式戦車は手動ハンドルによる装填も可能で欠点をある程度は補っている。ちなみに、自動装填装置を採用している戦車はフランスのルクレールやロシアのT−80などがある。

 そのほかは通常は使用しないが、非常時の脱出用として床面にハッチがある。



機動力

射撃のために前傾姿勢をとっている90式戦車  90式戦車は最大出力が1,500馬力の10ZG32・V型10気筒2ストロークディーゼルエンジンが搭載されている。このエンジンは非常に強力で、重量が50tある90式戦車の車体を軽々動かせるだけでなく、74式戦車の最高速度が53km/hであるが、90式戦車では70km/hもの速力が出せるようになっている。ちなみに燃費はリッター3kmほどであり、一般の自動車とは比べものにならない(重量が違いすぎるのであくまでも参考情報程度に)。
このエンジンは74式戦車のエンジンのように空冷ではなく、水冷となっており、なおかつ小型・軽量である。

 変速機は前進が4段、後進が2段となっており、サスペンションは前後の2転輪(第1、2、5、6転輪)が油圧式で中央(第3、4転輪)がトーションバーというハイブリッと方式が採用されている。この油圧サスペンションは74式戦車と同様に姿勢制御を行うことが出来、前後に±5度、車体は+170mm〜−255mmまでの範囲で変更できるが、74式戦車のように車体を左右に傾けることは出来ない。これは90式戦車の射撃統制装置が充実しており、車体を複雑な地形に合わせなくても正確な射撃が可能になったのと、構造的に複雑化する油圧装置の導入を避けたことが理由といえる。



防御力

 防御力としてはじめにあげられるのが装甲である。

 90式戦車の車体の装甲は一部に複合装甲を備えている。90式戦車に使われている装甲の詳細は公表されていないが、セラミックが真ん中にあり、そして防弾鋼板の間にメッシュ状のチタンがあり(防弾鋼板・チタンメッシュ・セラミック・チタンメッシュ・防弾鋼板の構造)、であると考えられている。この装甲は開発試験で120mm滑腔砲から発射された徹甲弾や形成炸薬、装弾筒付翼安定徹甲弾などを数発撃ち込まれても耐えぬいたとされ、さらに35mm機関砲の掃射にも十分に耐え抜いたとされている。

この複合装甲は命中率の高い砲塔前面と車体前面に施されており、これは、車体と砲塔のすべてを複合装甲にすると重量が増してしまったり、コストも高くなってしまうためである。また、砲塔前面はM1戦車などのように傾斜させて避弾経始を考慮した形状にしていないが、これは戦車砲に十分に耐えられる強固な複合装甲があるためと、傾斜させた場合、それだけ装甲の量が増え重量増加とコストが高くなってしまうからである。

そして、複合装甲に関しては開発中に海外からの売り込みもあったが、国産の複合装甲で満足のできる性能のものが開発できたことから国産のものとなっている。

 そして、装甲以外の防御力としては、発煙弾発射機やブローアウト・パネルがある。

 現代の戦車では、レーザーで目標までの距離を正確に把握して射撃するのが一般的で90式戦車もそれを行う。つまり、射撃前にはレーザーが照射されるということで、そのレーザーが検知されれば射撃(攻撃)があるということになる。
そのため、90式戦車は砲塔の上面の前方中央にレーザー波検知器が装備されており、このレーザー検知器がレーザーを検知すると砲塔後方の横にある4連装発煙弾発射機が連動して発煙弾を発射する。

 またブローアウト・パネルは砲塔上面にあり、自動装填装置に被弾した場合に装置内の砲弾が誘爆してもこのパネルが吹き飛び、爆発力を外に逃がして被害を最小限にするという物である。

 このほかに、90式戦車ではサイドスカートを装備して足回り(キャタピラなど)の防御を強化しているほか、貯蔵弾と燃料系統を乗員から完全に分け、なおかつ消火装置をつけて乗員の生存性を高めている。これも広い意味での防御力である。

 防衛上、自衛隊の装備は誘導弾の射程など秘匿情報になってるものもあり、この90式戦車に関しても秘匿情報が多い。複合装甲に関しても構造などは公表されておらず、専門家の間で最も一般的な意見を記載した。
また、90式戦車はじめ、自衛隊の装備は幸いなことに一度も実戦で使われたことがないが、その分、実戦性能などが不明で、どの程度の攻撃に耐えられるのかなど客観的に判断が出来ない。



火力

120mm滑腔砲を射撃した直後の90式戦車。  90式戦車の主砲はアメリカのM1エイブラムズやドイツのレオパルト2などが装備しているドイツのラインメンタル社の44口径120mm滑腔砲で、国内で日本製鋼所がライセンス生産を行っている。
主砲はラインメンタル社の120mm滑腔砲を採用することが予定されていたが、日本製鋼所に開発を要求し、日本製鋼所がラインメンタル社のものをはるかにしのぐ貫通能力を有する国産砲を開発できたが、砲の素材が管理の難しい素材を使用していたため量産時にはラインメンタル社のものと大差ないとされ、国産砲の採用はなかった。しかし、高性能の国産砲が開発できたことでラインメンタル社からのライセンス料を安くすることが出来ている。

 使用する弾種は装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)と多目的成形炸薬弾(HEAT−MP弾)で、これらの弾薬は自動装填装置に納められており、状況によって選択して使用することが出来る。APFSDS弾の有効射程は3,500mで約900mmの装甲貫通能力があるとされている。

 副武装として主砲と同軸に74式車載7.62mm機関銃を1挺装備しており、また、砲塔上面に対地、対空用に12.7mm重機関銃M2を1挺装備している。

 そして、これから紹介するものは『火力』ではないが、現代の戦車などは主砲などの物理的大小だけでなく、ソフト面も重要になってきており、このソフト面も広い意味での火力として分類する。

 90式戦車の射撃統制装置は容量の大きいデジタルコンピューターを中心とした防御システムと車長や砲手のサイト操作パネル、横風センサー、赤外線センサー、砲安定装置などのサブシステムによって構成されている。このデジタルコンピューターは弾道計算のほかに、砲に標的を自動的に追尾させるといった、様々な戦闘モードを統制する機能も有している。このコンピューターには横風センサーからの風速・風向データ、赤外線センサーからの目標データ、レーザー測距装置からの距離データなどが入力され、車長や砲手の操作パネルに結果が表示される。
これらの装置によってお互いが移動しながらの(行進間)射撃においても高い初弾命中能力を持っている。



その他

 90式戦車についてとかく批判的に言われているのが重量面と配備数だ。

 重量面では90式戦車は重量が約50tあり、74式戦車の約38tと比べるとはるかに重い。このため、橋を渡ることが出来ないなど戦略機動性にかけるなどといわれているが、開発状況などを見れば北海道に配備することを大前提として製作されており、実際、教育部隊以外で北海道以外に配備はされておらず、事実上北海道専用配備車両である。

本州なども含め、全国的に配備することを考えれば74式戦車のように重量が40t程度と軽くなければ離島などへの緊急移送や高速道路などを使った部隊移動などに対応しにくい。しかし、90式戦車が事実上北海道専用装備であり、北海道では離島などへの緊急移送の必要性がほとんどなく、さらに北海道は(日本では)広大な大地があり、最高速度70km/hという速度を使って高速移動が可能である。
さらに、重量ゆえに橋を渡ろうとすれば橋が崩れるなど言われているが、抜け道などのにかかっている小さな橋はともかく幹線道路などにかかっている大きな橋の場合は大型トラックなどの同時通行なども考えて造られており、同時通行は出来なくても1両ずつ通過させるなどすれば十分に可能である。
そもそも、戦争になった場合に攻め込む側からすれば戦車などの到着を妨げようと橋や幹線道路などを破壊するだろうし、そういう事態に備えて91式戦車橋や92式浮橋などがあるのである。

 そして、この90式戦車に関する批判点として一番大きいといっていいのが、調達量の問題で、制式化から20年近く経過するが、配備部隊は教育部隊の富士教導団、武器学校、実戦部隊は第7師団の戦車連隊、第2戦車連隊、第5戦車隊、第1戦車群だけである。更に90式戦車だけで編成されているのは第7師団の戦車連隊だけで他の部隊は74式戦車と混合運用となっている。

 近年の調達量の推移は下のグラフを見てほしいが、90式戦車は高性能ゆえに1両が制式化当初は約10億円だったが、開発当時はバブル景気で、さらに冷戦構造の激化などがあり、高価格でも予算的に配備が可能との見方があった。しかし、冷戦構造の崩壊、追い討ちをかけるかのようにバブルの崩壊があり、それから来る政府の財政難で防衛予算も削られ当初の予定が狂ったとされている。開発当時は年間40両程度の生産を計画していたが、社会党の村山政権下で年間20両程度まで減らされ、現有戦車の後継となる新戦車が開発中の現在は事実上生産ラインを維持する程度の生産量しかない。

 さらに、調達がなかなか進まない背景に脅威の変化がある。現代では戦車などで攻め込まれるという状況は少なくなってきており、代わりにテロリストやゲリラなどの侵入、特殊部隊による奇襲攻撃などの脅威が増している。これらに対応するためには機動性が求められるが、戦車は重量面などから機動性に限界がある。離島に移送する際は空自の輸送機では輸送できないため海自の輸送艦が必要になるが、輸送艦で輸送するためには時間がかかる。これらの戦車の機動性の低さか戦車不要論まででている。防衛省の石破大臣も幹部に対して戦車は必要なのかと言ったとされており、戦車ではなく輸送機で輸送可能な装甲車の調達に重点を置きつつあるためでもある。
戦車の調達コストなどを考えれば戦車を調達せずに速射砲を搭載した装甲車(機動戦闘車)を調達してファミリー化によりコスト削減を図り、浮いたコストで個人の情報端末の整備を行うのが現代の状況を考えれば良いのではないかと思う。もちろん、対戦車戦闘においては戦車は重要であることは言うまでもない。




90式戦車は2010(平成22)年の新戦車の量産まで調達予定で、最終的には341両が生産される予定。


諸元・性能
名称 90式 戦車
乗員 3人
全備重量 約50t
全長 9.755m
全幅 3.43m(スカート付)
全高 2.335m(標準姿勢)
キャタピラ幅 600mm
登坂能力 約60%
最高速度 70km/h
燃料タンク容積 1,200リットル
行動距離 約340〜400km
武装 120mm滑腔砲・・・1
副武装 12.7mm重機関銃 M2・・・1
74式 車載7.62mm機関銃・・・1
エンジン 水冷2サイクル10気筒ディーゼル機関
1,500PS/2,400rpm 
開発 防衛庁 技術研究本部



フォトコレ
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濃霧の中の90式戦車  濃霧の中射撃を行おうとしている90式戦車  泥を撒き散らしながら走行している90式戦車  120mm砲を射撃した瞬間には強烈な発砲炎が発生する  前傾姿勢で射撃体勢をとっている90式戦車  正面から見ると改めて車体の大きさがわかる

90式戦車の砲塔に施された富士教導団・戦車教導隊・第2中隊のマーキング  90式戦車の砲塔に施された富士教導団・戦車教導隊・第5中隊のマーキング  個人的に90式はこの角度から見るのが一番カッコイイと思う  横から見てもやはり大きい  射撃体勢をとっている90式戦車  射撃直後、発砲炎と砲弾が写っている




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